あれから数日がすぎた。
浩二とはあの日以来、話らしい話をしていない。
帰り際、お互い少しだけ距離を置こうと言ったのは自分だった。
会えば冷静でいられる自信がなかったからだ。
以来、浩二が迎えにくることはなくなった。
美加子は一人机で本を広げては、何もない虚空を仰ぐ。
「アメリカかあ」
浩二がアメリカ帰りの帰国子女だということは、
本人から聞いて知っていた。
向こうで考古学の調査をしている母親についていた、と。
それがなんの気まぐれか、
突然単身日本に帰国して美加子のいる高校へ編入してきた。
『だから今は一人暮らしなんだな』
出会って間もない頃、
親しくなるきっかけとなった黒猫をどちらが引きとるのか話し合った際、
浩二が得意げに言っていた。
結局、彼のマンションはペット可ではないため
黒猫のミケは美加子が育てることになったのだが。
一人暮らしをしてまで日本へ帰ってきて
やりたかったことはなんなのだろう、と今さらながらに考えてしまう。
浩二に訊いても結局ごまかして教えてくれなかったが、
よほどのことにちがいない。
それなのに、今度は一転アメリカへ再留学するだなんて。
「わけがわかんない」
美加子は溜め息をつき、シャーペンをノートに放りだす。
「夏期講習までは国立で史学を学ぶ、とか言ってたくせに」
国立なら気合いを入れて応援しなければ、と、
自分も英文科のある私大のレベルをぎりぎり上げてまで
受験勉強に勤しんでいたのに。
「この場合、彼女なら応援するべき?」
美加子は足元にじゃれついてきた黒猫のミケに問いかける。
小さく鳴き続けるミケを抱きあげ腕の中に抱きしめ、顔をうずめた。
「海外なんてやっぱり遠いよ……」