≪ 一、夕飯前のひととき 1 ≫
「お義母様、お茶はいかがですか」
夕ご飯の準備も一通り終え、小笠原園子(おがさわらそのこ)は
姑である正子(まさこ)に声をかけた。
「そうね。
孝一(こういち)さんたちも出て行ったばかりだから、もうらおうかしら」
白の割烹着を脱ぎ、六人掛けのテーブルへ戻ってきた正子がにこりとほほ笑む。
園子は正子の正面へ座り、お茶を二人分用意する。
テーブルの上には、舅である孝一と小笠原家が代々祀っているお狐様に
味見をしてもらったばかりのアミエビ入りの出汁巻き卵の残りが置いてあった。
それを正子が眺めている。園子には姑が考えているであろうことが容易に想像できた。
「お狐様に美味しいと太鼓判を戴けて安心しましたね、お義母様」
「私は最初から心配なんてしていなかったさ。
元々、お狐様は園子さんの作る出汁巻き卵が大好きだからね」
(こういうところがお義母様の可愛らしいところよね)
本当はとても心配していたのにそれを知られるのが恥ずかしいらしい。
園子は素直じゃない姑に頬を緩ませた。
オープニング背景画像:nanairo125さんによる写真ACからの写真