コンコン様の家来候補生 その2

「調子はどうだ、グラン?」


 ノックもせずに入ってきたのはアルフだった。

彼に関わるとろくなことがない。

そうとわかっているのに、関わらざるを得ない。

出会ってからすでに十数年経つが、いつも知らぬ間に彼の手のひらで踊らされている。

何より一番腹立たしいのは、結果的に全てグランのためになっているということだ。

そこへたどり着くまでの過程がちゃんとしていたものだったらグランも、

もう少し素直な人間になっていたかもしれない。


「いつもと変わりませんよ」


 グランはアルフの方を見ることもなく、背中を向けたままでいた。

悪巧みを考えていそうなアルフが次はどうでるか。

グランは、全身で警戒しつつも平静を装った。

余計なことは一切言わない。

これが長年、アルフとの関係の中で培った最も被害の少ない方法だ。


「それは何より。それで、わしが頼んでいた奴はもうできたか?」


 実験を食い入るように見ているグランを気にすることなくアルフは話を続ける。


「えぇ、その緑の本の上にある茶色の物がそうです」


 グランは意地でもアルフの方を向かなかった。

彼と目を合わせた結果、実験が取りやめなどとなったら泣くに泣けない。

貴重な土産物なのだ。

この実験だけは絶対に死守しようとグランは心の中で誓った。


「上々、上々。じゃ、これ貰っていくからな」


「えっ?」


 アルフは例えグランが仮眠をしていても、わざわざ起こしてから帰るほどの人だ。

それが、何もしないで帰ろうとしている。

いつもと違うアルフの態度に驚き、グランは頑なに背中を向けていた身体をアルフの方へと変えた。


「なんじゃ?」


 振り返ったグランと目が合った瞬間、アルフは不思議そうな顔をする。

その態度をグランは好機だと考え直した。


「いえ、なんでもありません」


 今日のアルフはグランに構っている暇もないほど忙しいのかもしれない。

それならば、ヘタなことを追求するよりも、早々に退室してもらおう。

グランは、わざとらしく見えないように身体の向きを元に戻した。


 うまい具合にアルフを騙すことができればいいのだが。

幼い頃から感情を隠すことを得意とするグランだったが、育ての親のようなアルフにはみすかれてしまう。

今も背中を向けたグランをみすかそうとしているに違いない。

そう思うと余計にアルフの視線を感じる背中がむずがゆくなった。

グランは身震いしたくなる身体を必死で抑えた。



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