≪ 第一章 出会いは突然に 1 ≫
一
誕生日を翌日に控えた日の夕方。小笠原清美(おがさわらきよみ)は急ぎ足で通学路を歩いていた。
中途半端に切ってしまった後ろ髪と同じ長さの前髪が、火照った顔に張りついてうっとうしい。
「あー、もう。なんで今日に限って日直なのよ」
ジメジメとした暑さと額から滴る汗に苛立ち、つい愚痴っぽくなってしまう。
「せっかく良人(よしと)君と帰れると思ったのに……」
幼なじみで意中の彼でもある、佐藤良人と一緒に帰る約束をしていたのだが、
いざ帰ろうと荷物をカバンへ詰めこんでいたときに思い出してしまったのだ。
日直の仕事がまだ残っていたことを。
「本当についてない……」
それでもまだ間に合うかもしれないと、清美は小走りに近い速度で彼のあとを追っていた。
たとえほんの少しでも一緒に帰りたい。
その一心で暑いのを我慢して早歩きを続けているのだが、清美の願いむなしく一向に良人の後ろ姿を
捉えることはできないでいる。
気がつけば、もう少しで彼が住む商店街の道へとさし掛かるところだった。
(え、何?)
ちょうど最後の曲がり角を曲がろうとしたときだ。誰かが目の前に立ちはだかり、道を塞ぐ。
中学生だろうか。一五七センチの自分と同じくらいの男の子だった。
白い半袖のシャツから覗く細い腕は、太陽に晒すとすぐに黒くなってしまう自分とは正反対に白くシミ一つ
ない。
(何この子、すごく可愛い)
アーモンドのように丸く、尖った部分が少しつりあがっている琥珀色の瞳。
男の子だとはわかっていても幼さを残しているためか、愛らしさが多分に出ていた。
これから成長期を迎え、男性らしさが身につけば可愛らしい顔つきもカッコイイものへがらりと変わること
だろう。
(すごい、白金の髪の毛なんて初めて見た)
かたむきかけた日に照らされ、おかっぱ頭の髪の毛がキラキラ輝いている。
自分の好みではないが将来有望そうな男の子に見とれていると、可愛い顔とは不釣合いな言葉が聞こえてきた。
「そなた、われの嫁になれ」
「は?」
清美は聞き間違いかと目を数回またたかせた。