お狐様が嫁になれと言い出しました 2
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≪ 第一章 出会いは突然に 2 ≫



「だから、そなたわれの嫁になれ」

 間違いではなかったらしい。なら答えは決まっている。

「やだ」

「なっ! われの嫁になれと言ったのだぞ」

 自分が振られるはずはないと言わんばかりの態度にムッとする。
ここは年長者として現実の厳しさを教えてあげよう。
清美はハッキリと大きな声で引導を渡すことにした。

「だから、や・だ! お断り。君の嫁どころか恋人にだってなりません」

 こちらの答えが相当ショックだったのだろう。
清美は動かなくなってしまった少年を多少不憫に思いつつも、関わりたくなかったためそのまま彼を放置した。


※※※


 逃げるように歩き出すとすぐに商店街へ到着してしまった。もう良人は家についてしまったのだろうか。
清美は想い人の姿を捕らえることができず、肩を落とす。

(あの変な中学生に会わなかったら間に合ったかもしれないのに!)

 今度会ったら文句を言ってやる。清美は息巻いて商店街に足を踏み入れた。

(それにしても人少ないなぁ)

 そろそろ夕飯の準備をする主婦で賑わいをみせてもいいはずなのに、あたりは閑散としている。
 商店街から歩いて十五分ほどしたところにある駅の中にデパートが併設されてからというもの、
商店街を利用していた客足が徐々に遠のいてしまった。
おかげで五十以上あった店舗もずいぶんと減り、今ではシャッターを下ろしたままの店が目立つ。

(ちょっと前までは活気があったのになぁ)

 ため息をついて立ち止まる。以前だったら通行の邪魔になるはずの行為だが、
スカスカの通路になってしまった今では関係なかった。

「稲荷湯が閉店しちゃったらどうしよう」

 このままだったら商店街が潰れてしまうのも時間の問題かもしれない。
そうなってしまえば銭湯を営んでいる良人の家が廃業に追いこまれ、
最悪この場所から出て行ってしまうおそれもある。

(まだ告白だってしてないのにお別れなんて、絶対に嫌)

 でも高校生の自分にできることといえば、商店街で買い物をするくらいだ。

「私にも何かできることがあればいいのに」

 目線を下へ向けながらポツリと呟くと前方に影ができた。

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