「また読んでるのか?」
草を踏みしめる音と共に聞こえてきた声にミラは読んでいた手紙から顔をあげる。
そこにはからかいを含んでいるときの母親と同じような笑みを浮かべたエポックが立っていた。
自分の倍以上はありそうな体つきは昔からで、いくら外に出ても日に焼けない真っ白な肌からついた彼のあだ名は『白熊』だ。
幼い頃、体は大きいくせに気が小さかったためよくいじめられていたエポックを助けたのはいい思い出だ。
その彼が今は職場の先輩なのだから感慨深い。
「別にいいでしょう。休憩中なんだし」
からかわれるのが嫌でぷいっとそっぽを向くが、そんな態度でやめるような幼馴染ではなかった。
わざわざ隣に来てナーブの木に寄りかかるや、顔を覗き込んでくる。
「まぁ、やっとガサツなお前にできた彼氏だもんなー」
「か、彼氏なんかじゃないわよ……」
声を裏返しながら否定するが、エポックは信じていないようだ。
「照れるな、てれるな」
「照れてなんかいないってば!」
「嘘つけ、俺の目を誤魔化そうなんて100年早いぞ」
エポックが悪巧みを考えている子供のような笑みを浮かべた。
「誤魔化してなんか……」
「知ってるか? ミラって顔が赤くなる代わりに鼻の頭に汗くんだぞ」
「嘘っ!」
幼馴染の指摘に鼻を手で抑える。エポックが腹を抱えながら大きな声で笑い出した。
「ブッハハハハハハ。嘘に決まってんだろう。嘘だ、う・そ。まんまとひっかかったな。動揺してる証拠だ」
何が起きたのか理解できずに固まっていると、エポックは、あー笑ったと目尻を拭きながら立ち去って行った。
「え? って、エポックあんたっ! あたしを騙したのねー!!」
ふつふつとわいてくる怒りに拳を握りしめ、叫ぶ。しかし彼の足が止まることはなかった。
「あ、そうそう。あともう少ししたら出発だから用意しておけよ」
「ちょっと、エポック待ちなさーい! って、え、もう出発?」
歩いたまま告げられた言葉にミラは目を見開く。
慌てて周囲を見渡せば、同じように休憩をしていた同僚たちが荷物の整理をしている。
「ちょっとあんたのせいで全然休めなかったじゃないのー」
ミラは叫びながらも読んでいた手紙を丁寧に封筒の中へ戻し、箱の中へ入れた。