一
「突然で悪いんだけれどね」
叔父の桐野幸弘(きりのゆきひろ)が受話器の向こう側で、言いにくそうに話を切り出した。
「本当に悪いと思ってはいるんだが……」
何度も繰り返す相手の声に、わたし、増岡紗智子(ますおかさちこ)は苦笑する。
スマホ片手に額の汗を、忙しげに拭いている叔父の長細い顔が、目に浮かんだからだ。
「何がおかしいんだい?」
彼はそんなわたしの反応むっとしたようである。
けれど心なしか声が弾んでいるようにも感じられた。
「いえ、別に」
「本当かな」
なるべく素っ気なく応えるわたしに対し、叔父はおどけたように笑った。
どこか歪で、やけに落ち着きのない声音だった。
今君に必要なのは他愛のない会話なのだ、と諭すかのような。
そんなことは当に理解していた。でも感情が拒む。
どうしても受け入れることはできない、と。