クロナは病弱な弟の邪魔になってはいけないと、
隣村からアローナの家へとやってきた言わば居候である。
日々の暮らしはアローナが村から貰っている遺族年金のほか、
クロナの両親からの生活費で賄っているのだが。
(帰ろうと思えばいつ帰っても構わないはずなのよね……)
まあ、クロナの両親にもいろいろあるということだろう。
その点に関してアローナはクロナに口出ししたことはない。
(まあ、話したくなったら話すだろうしねー)
胸の内で呟きながらノートを捲る。
3つ年下の彼には確固たるお嫁さん像があるらしく、
いつも部屋に籠ってはまだ見ぬその人宛てに
手紙を書き綴っているらしい。
アローナは栞の挟んである場所を探し当てると、声に出して読んでみた。
「えーっと、何なに? 『その髪は……』と……」
少し大げさに詩を口にするが、クロナが出てくることはなかった。