≪ 第一章 紅い花 4 ≫
「は、はい……」
瞳を潤ませ答えた女性へ、裕紀が爽やかな笑顔を向ける。
「ありがとうございます。ぜひお友達といらしてください。素敵なお嬢さん」
「はい! ええっと、あれ?」
どうやら女性は状況を飲み込めていないらしい。
無理もない、と小さくかぶりを振っているのをよそに、裕紀は新たなターゲットへ声をかける。
「あ、そこの美しいお嬢さん! よろしければ受けとっていただけませんか?」
「こらこらこらこら!」
栞は流れるような所作でブーケを差しだす裕紀へ歩み寄り、背中を軽く叩いた。
「あ、栞さん。こんにちは。今日もお綺麗ですね」
そばでは先刻声をかけた女性がまたしても固まっている。
かわいそうにと同情しつつ、栞は振り返った裕紀を睨み据えた。
「あんたね、ちょっとは自分の言葉と容姿に責任持ちなさいよね」
「僕、何かしましたか?」
「してるでしょうが、今まさに」
「そうは言われても、僕はお店の宣伝をしているだけですが。いけませんでしたでしょうか」
栞はすまなさげに眉根を寄せ身体を丸める裕紀の鼻をぎゅっと握る。
「痛い、痛い!」
「不平は後で聞くから、まずは謝る!」
叱りつけると、裕紀が鼻を摩りながら首をかしげた。
「え? 誰にです?」
「決まってるでしょ! ここで固まってる二人の女性によ!」
「え!」
「『え!』じゃないわよ! 謝りなさい!」
鼻先に指を押しつけ言い切ると、裕紀が姿勢を正しはい、と答える。
高等部へ手をやりながら、自失としている二人の女性の間に立った。
「あの、申し訳ございません、お嬢様方。僕にとって唯一無二の人である栞さんが怒ってしまわれたので、
どうぞその怒りを解くためにもこの謝罪をお受け取りいただけませんか?」
裕紀がうやうやしく一礼し顔をあげる。
垂れていた金髪の隙間から両耳につけた計五つのピアスがきらりと輝き、惚けていた女性たちの瞳に炎が宿った。
次の瞬間、高い音が鳴り裕紀がたたらを踏む。
「さいってー!」
「ふんっ!」
怒りの言葉を吐き捨て、女性たちが去っていく。
ヒール音を聞きながら裕紀の肩へ手を置くと、頬を押さえた裕紀が涙目で尋ねてきた。