秋色ノクターン 第4話

「そんなこといきなり言うの? そんな奴なら別れちゃえ、別れちゃえ!」


 たこ焼きを器用にひっくり返しながら有香が告げてくる。

いくらなんでもいきなりそれはない。

反論しようと口を開くその横で、

そんなあ、と眉を顰めたのは紗江だ。


「それはいくらなんでも酷いよ、ゆっちゃん。みっちゃんだってまだ好きなんだから」


 冷静に意見しつつ、嬉しそうに焼きあがったたこ焼きをほう張る。


「じゃあ、紗江には他にいい解決策でもあるの?」


 有香の問いに首をかしげた紗江が、

そうだ、と竹串をこちらにたててきた。


「ついていっちゃうとか?」

「それもムリ」


 美加子は有香が皿に置いてくれたたこ焼きを、

無意味に割りながら即座に切りかえす。


「でもみっちゃん、英文科目指すんでしょう?」


 尋ねてくる紗江に美加子は頷く。


「でも、英文科目指すのに英会話は必要ないもん。

自分が入れるとこ探せないわけじゃないけど、

そもそも浩二のいく大学と離れてたら意味ないし、それに……」


 言葉を詰まらせると、有香が優しげな声音で先を促してきた。


「それに?」

「たぶん、そういうふうに自分の進路を曲げるのはよくないと思う。

うまく言えないけど、浩二もそういうことは望んでないような気がするし」


 俯いて答えると、沈黙がおりたあと、紗江が、そっか、と呟いた。


「それでも、いきなり結論だけじゃ、淋しいよね……」


 うん、と頷き、たこ焼きを口に含む。

どうしてもっと前もって話してくれなかったのだろう。


「そんなにわたしって頼りないのかなあ……」


 蚊の鳴くような声で告げ竹串を置くと、

たこ焼きから出ている温かそうな湯気が涙で滲んだ。

一つ前を読む   小説の部屋に戻る   次を読む