「そんなこといきなり言うの? そんな奴なら別れちゃえ、別れちゃえ!」
たこ焼きを器用にひっくり返しながら有香が告げてくる。
いくらなんでもいきなりそれはない。
反論しようと口を開くその横で、
そんなあ、と眉を顰めたのは紗江だ。
「それはいくらなんでも酷いよ、ゆっちゃん。みっちゃんだってまだ好きなんだから」
冷静に意見しつつ、嬉しそうに焼きあがったたこ焼きをほう張る。
「じゃあ、紗江には他にいい解決策でもあるの?」
有香の問いに首をかしげた紗江が、
そうだ、と竹串をこちらにたててきた。
「ついていっちゃうとか?」
「それもムリ」
美加子は有香が皿に置いてくれたたこ焼きを、
無意味に割りながら即座に切りかえす。
「でもみっちゃん、英文科目指すんでしょう?」
尋ねてくる紗江に美加子は頷く。
「でも、英文科目指すのに英会話は必要ないもん。
自分が入れるとこ探せないわけじゃないけど、
そもそも浩二のいく大学と離れてたら意味ないし、それに……」
言葉を詰まらせると、有香が優しげな声音で先を促してきた。
「それに?」
「たぶん、そういうふうに自分の進路を曲げるのはよくないと思う。
うまく言えないけど、浩二もそういうことは望んでないような気がするし」
俯いて答えると、沈黙がおりたあと、紗江が、そっか、と呟いた。
「それでも、いきなり結論だけじゃ、淋しいよね……」
うん、と頷き、たこ焼きを口に含む。
どうしてもっと前もって話してくれなかったのだろう。
「そんなにわたしって頼りないのかなあ……」
蚊の鳴くような声で告げ竹串を置くと、
たこ焼きから出ている温かそうな湯気が涙で滲んだ。