≪ 一、夕飯前のひととき 4 ≫
「お疲れ様。もう終わったの?」
「うん。下書きだけ。でも艶子さんからOKもらえたよ」
清美は席に座るなり、キョロキョロと室内を見まわした。
「……あれ、天とお祖父ちゃんは?」
清美の問いに正子が答える。
「お狐様なら孝一さんは商店街におつかいに行ってもらっているよ?」
「そうなんだー」
「丸太さんのところのハムカツを頼んだの。清美ちゃんも好きでしょう」
園子は、寂しげな顔をする清美を微笑ましく思いながら、娘の前にお茶を置いた。
「何かご用でもあったかい?」
正子の問いに清美が首を横に振る。
「ううん、別に。あ、これが例の出汁巻き卵? いつもと違うね」
「えぇ。アミエビを一緒に入れているのよ」
「アミエビ? あ、この桃色のやつ? 食べていい?」
「いいわよ。あ、清美ちゃん手を洗ったの?」
高校生にもなったのだからいちいち言わなくても洗っているとは思う。
だが、どうしても清美が幼かった頃のような対応をしてしまう自分に、園子は内心で苦笑する。
当の本人である娘は、特に怒ることもなく、どこか自慢げに両手を見せてきた。
オープニング背景画像:nanairo125さんによる写真ACからの写真