≪ 一、夕飯前のひととき 3 ≫
「なんでもスタンプで集めた抽選券を駅前のデパートで提示したら
割引してくれるそうなんですって」
「そいつはいいね。
……これを機に商店街の活気が戻ってくれるといいんだけどねぇ」
「そうですね」
湯呑を傾ける正子にならうように園子もお茶をひと口飲む。
夕食前のまったりとした時間を堪能していると、娘の声が廊下から聞こえてくる。
「はぁー。もう手痛いー」
「まぁ、清美様ったら大げさな。本番は明日からですよ」
清美がパタパタと音を鳴らし入ってきた。
その手のひらには、首振りの黒い狐の置物が鎮座している。
清美の十六歳の誕生日とともにお狐様に封印されていた娘の視鬼の力が解かれ、
それまで置物だったものたちが活発に動き出した。
その一つが娘の手のひらにいる首振りの置物、艶子様だ。
目尻に描かれたピンク色のアイシャドーが特徴で、色気と可愛らしさを兼ね添えた狐様である。
(すっかり仲良しね)
神社の娘であるのに霊的なものが苦手な清美だったが、お狐様や艶子様たちは大丈夫なようだ。
園子は、労いを込めて清美に話しかけた。
オープニング背景画像:nanairo125さんによる写真ACからの写真