≪ 第1章 落胆 3 ≫
琴乃は朝起きて着替えるとすぐに、
栞の入った懐紙を大事に懐へしまい込んだ。
今日は月曜日。
碧石(へきせき)女学院へ行かなくてはならない。
学校は大好きだが、
やはり婚姻が決まっているのに通わなくても、と思ってしまう。
(その方が色々と探られなくて済むし)
何しろ婚約者の入来院千尋は人気が高い。
いつも川向うの丘の上で読書をしていた彼は、
丘の上の君とかいう異名が付くほど女学生から熱い視線を送られていた。
そんな千尋との出会いは、学校帰りの街中だった。
洋食店の前で探し物をしている紳士と学生に遭遇したのだが、
それが入来院親子だったのだ。
2人が探していた物は吾亦紅の押し花のついた栞だった。
オープニング背景画像:良香さんによるphotoAC(写真AC)からの写真