≪ 第1章 落胆 2 ≫
「私は入来院様のご勉学の邪魔はしたくございませんので、
千尋様が良いと思われる時までお待ち申し上げようと思います」
「琴乃……」
義貞が呟き、深く吐息する。
父としてはすぐにでも女学校をやめて婿を取って欲しいのだろう。
跡継ぎの顔が見たい気持ちは、琴乃にも痛いほどわかる。
だが、千尋が猶予を望む以上、
妻となる自分には何も言うことはできなかった。
それは義貞もわかっているのだろう。
しばらく眉間に皺を寄せだんまりを続けていたが、
こちらの表情が変わらないのを見てふと肩の力を抜いた。
「夫婦になるべき2人が待てと言うなら致し方ありませんな」
「あなた……」
母の薫子(かおるこ)が不満げな声をあげるが、
義貞がそれに答えることはなかった。
「では、2年、お待ち申し上げましょう。それでよろしいかな?」
義貞の確認に、千尋の顔が引き締まった。
「はい! ありがとうございます!」
「では、そのように」
それから、細かな話が幾つかなされた後、入来院親子は帰って行った。
その後ろ姿を見つめながら、琴乃はこれからの2年間を思って嘆息した。
オープニング背景画像:良香さんによるphotoAC(写真AC)からの写真