(くー、くやしい! エポックのくせに正論なんて言っちゃってさー。昔はびくびくしてて何も言えなかったくせにー!)
心の中で言えなかった文句を叫んでいると、エポックがやれやれといったふうに肩を竦める。
「アドノーの町についたら行きたい場所があるって言ってたのはお前だろう?」
ミラは先ほどまで感じていた怒りを忘れ、ポンッと手を打った。
「そうだった薬草屋さんに行くんだった! エポック、今日はここに泊まるのよね?」
「あぁ。とりあえず初日だし、この町で一泊して明日早朝に出発するって会議で話しただろう」
「わかったわ。ありがとう。それじゃ、あたし行くわね」
「って、ミラ! お前、宿の……」
ミラはエポックの言葉を最後まで聞くことなく、その場から走り去った。
目指す場所は前回プレオの怪我でお世話になったフィット親子たちの営む薬草店だ。
(プレオも連れてこられたらよかったのになー)
初めての旅ということもあり、モモンガのプレオは家で母と共に留守番をしている。
自分のことで精いっぱいなのにプレオの面倒までは手が回らないだろう。そう判断した。
イースへ元気になったプレオの姿を見せたかったがこればかりは仕方がない。
(今頃だったらきっとまだ眠ってるわね)
家で保護するようになったときに野生の警戒心を捨ててきたに違いない。
腹を出して無防備な姿で眠るプレオのことを脳裏に浮かべ、ミラは口元を緩める。
そうこうしている間に気づけば、足を止めたくなるほどの香しい匂いを放っていた商店街を抜け、
目の前に黒い扉を持つ店が見えてきた。
数か月前に来たときとなんら変わらない趣のある扉を視界に入れ、ミラは走る速度をあげる。
草の絵が彫られた看板を見上げながら乱れた息を整え、薬草店の扉を押した。