卵のつがい 第3話

(もうすぐイースに会えるんだ)

 以前から、モモンガたちがモモグの森とは別の場所で生息しているという話がまことしやかに囁かれていた。
考えられることとしては、乱獲されたあと逃げ出した個体が別の場所で根付いたという可能性。
あるいはモモグの森にいるモモンガが自主的に移動したという可能性など会議の中であげられた。
そんな中持ち上がったのが、理由はどうであれモモグの森以外にモモンガが生息しているのならば、
その分布を調べておいた方がいいのでないか、ということだった。
手始めに王都近郊にある森から調べることとなり、自分を含め選抜された数名で今向かっている。

(どんな顔するかな? やっぱり驚くかしら)

 想像するだけで楽しくなってきた。クスクス笑いながら、手紙が入った箱を撫でているとエポックに呼ばれる。

「ミラー! いつまでにやにやしてるんだー! 出発するぞー!」
「に、にやにやなんてしてないってば!」

 これ以上からかいのネタを提供するのは嫌だ。ミラは急ぎ、箱をリュックの中へしまい集合場所へと向かう。

 休憩のあと。殿を務めるエポックに追い立てられるように、北へと続く細道をひたすら歩くこと数時間。
やっと町が見えてきた。
見慣れた白壁の家々が立ち並ぶ町の中へ到着するや、ミラは躊躇することなくその場にへたり込んだ。

「やっと、ついたー」

 前回来たときよりも遠くに感じたのはやはり体調が万全ではなかったからだろうか。
こんな調子ではイースに会うどころの話ではなくなってしまう。

(今日こそはちゃんと眠らなきゃ。ううん、こんなに疲れたんだもの絶対早く寝ちゃうわ)

 内心で頷いていると、急に背後のリュックが上へ持ち上がった。

「ほら、こんな場所で座んな! 邪魔だろう……さっさと立て」

 背負ったままのリュックが引っ張られ、腕が変な風に持ち上がる。
ミラは窮屈な体勢から逃れるべく急いで立ち上がった。

「わ、わかったわよ。わかったから手、離して!」
「そんだけの元気があれば問題ないな」

 大声で笑うエポックに腹立たしさ感じ、睨みつける。だが、道端に座り込んだのは自分だ。
ミラは開きかけた口を閉じる。
収まり切らない怒りを、手をギュッと握ることで霧散させようとしたがあまり効果はなかった。

一つ前を読む   小説の部屋に戻る   次を読む