『アルマ』が未だ目覚めないのは、自分が消えずにいるからではないか。
だとしたら……。
(俺はまたしても罪を犯していることにならないか?)
そう思うと、これ以上鏡を直視してはいられなかった。
まるで、鏡の中の『アルマ』が自分を責めているようで堪らない。
(わからない)
何がいけないのだろう。
成し遂げなければならない何かが、他にあっただろうか。
それとも、新な罪ゆえに?
思考は巡り、答えは空回る。
『ジョーイ』はおもむろに左のポケットへと手を差し入れ、中身をそっと抜き出した。
それは時を経て自分の元へ舞い戻って来た、古びた赤いリボンだった。
もっとも、正確には『ジョーイ』の物ではなく、
己の嘗ての妹に贈るはずのものだったのだが。
『ジョーイ』はしばしリボンを見つめた後、
また丁寧に元あったポケットの中へとしまい込み部屋を出た。
階下へと伸びる階段を、手すりをつたいゆっくりと降りる。
その時、右手にある居間の方から何やら低く地を這う様な、
それでいてひどく神経質な話し声が耳へと飛び込んできた。