どのくらい時間が過ぎただろう。
グランの耳に扉が開く音が聞こえた。
今日はアルフから実験を死守できたようだ。
グランは、抑えていた息をゆっくり吐き出した。
だが次の瞬間、グランの願いは脆くも崩れる。
「おっと、そうじゃった。グラン、今から話があるから着いて来い」
アルフは、グランが安堵したのを見計らっていたかのようにわざとらしく言葉を吐く。
心臓を締め付けるほど驚いたその声にグランは恐る恐る扉の方へ振り返った。
そこにはグランの魂胆などお見通しだとでもいうような顔をしたアルフがこちらを向いて立っていた。
イタズラが成功した子供のような笑顔を向けているアルフに、グランは己の敗北を感じ始める。
だが、それでも素直に負けを認めたくなかった。
「じょ、冗談じゃありませんよ。見てわかる通り僕は忙しいんです」
グランは普段の冷静さを取り戻すために言葉を発した。
「それは、お前の趣味だろ? 仕事もせんと遊んでいるんだから、ついてこられるだろう?」
「趣味ですが、実益でもあります」
毎度おなじみの押し問答を繰り返す。
いい加減、自分も学習すればいいのに。
とグランは思うものの、ついつい挑みたくなってしまう。
それが無謀以外の何ものでないとわかっていても。
「ごちゃごちゃ言っとらんと、さっさと来い。来なかったら……わかっとるだろうな?」
グランの反論も聞かずに言いたいことだけ言うとアルフはさっさと部屋を出てしまった。
アルフの言葉を無視した結果、どんな嫌がらせをさせられるか。
それはアルフの弟子になってから嫌というほど体験してきた。
「……うそだろう」
誰もいなくなったグランの研究室にはグランの声だけがむなしく響いた。