新田菜穂子の壊された日常 3
しみるけいさんによる写真ACからの写真

≪ 一、え? なんで? 3 ≫



 それどころか、でも、とさらにまた距離を詰めてくる。


「それって随分昔のことでしょう?
それに遠距離恋愛で上手くいかなかったのは相手に真剣味が足りなかったからだと思うんです。
俺ならその点安心ですよ?
何しろこれでもそれなりに売れてるイラストレーターですから、
突然どこか遠くへ飛ばされるということもありません。
いつでも一緒にいてあげることが可能ですよ。お望みなら24時間でも」


 なんでそんな内々のことを知っているんだろう。怪訝に思い、しばし逡巡する。

 そう言えば以前、直己にちらっと話したことがあったかもしれない。

 あの時、直己は彼女のことと進路のことで悩んでいた。

思いきって美大へ進学したいが、自分がやりたいことは海外にあり、できれば留学をしたい、と。

だが、そうなると彼女と遠距離恋愛しなければならなくなる。

どうしたらいいのだろう、と菜穂子の職場の上司である田中館長へ相談に来たのだが、
生憎館長はその時不在だったのだ。

菜穂子は長年美術館の受付をしている。

しかし別段美術に明るいわけではないので、正直困惑した。

少年はまだ高校一年であるし、急いで悩みすぎなのではないかと感じた。

だが、あまりに項垂れている少年を長々と見ていられず、自分の数少ない恋愛話を披露したのである。

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