お狐様が嫁になれと言い出しました 3
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≪ 第一章 出会いは突然に 3 ≫



「あれ、清美ちゃん? 今、帰り?」

 影は清美が先ほどまで会いたいと願い、追いかけていた良人だった。
予想どおりすでに帰宅していたらしく、深緑のブレザー姿ではなく水色のTシャツに黒のジーンズといった
いで立ちだ。学校指定であるクリーム色のシャツの袖を捲った良人も格好いいが、久々に見る彼の私服姿に
胸が高鳴る。

「清美ちゃん?」

 首をかしげてこちらを見ている良人と目が合い、我に返った。

「え? あっ、よ、良人君! うん、そうなの。それより今日はごめんね」
「ううん、大丈夫だよ。清美ちゃんに代わって僕がちゃんと田沼さんを目的地まで案内したからね」

 今日一緒に帰る約束をしたのは親友の田沼(たぬま)リカコが発案したものだった。
 ウジウジと良人と帰りたいと言っていた自分を、見るに見かねたリカコが一肌脱いでくれたのだ。
それも商店街に用もないのに。

「あ、うん。ありがとう。ハハハ……」

 人の良さそうな良人の笑みに後ろめたさを感じ、清美は笑ってごまかした。

「気にしないで。商店街にお客さんがきてくれるのは嬉しいし。
それに……なんていうか、た、田沼さんっていい子だよね」

 照れくさそうに良人が赤く染まった頬を指で掻く。清美は彼の言葉にショックを受けた。

(良人君はリカのことが好きなの?)

 頭の中はそのことで埋め尽くされて何も考えられないはずなのに、勝手に口が動く。

「う、ん。そうだね。リカは優しいし、よく気がつくし、顔だって可愛いくて、スタイルもいいんだよ」
「そうなんだ。でもわかる気がするなぁ」
「あ、あのさ」

 墓穴を掘った。清美はこれ以上良人の口から親友の名前を聞きたくなくて彼の言葉を遮る。
だが何を話せばいいのか言葉が見つからない。

「ん? 何」

 こちらの行動に気分を害することなく微笑む良人にキュンとする。早く話さなくては変に思われる。
「あの、よ、良人君は、お買い物?」

 必死に思いついて出てきた言葉は商店街を歩いてきた人間にとってあたり前の言葉だった。
それでも良人は笑顔で応えてくれる。

「あー、うん。そうなんだ、丸太さんのところへ夕飯のおかずを買いにね」

 優しい彼の対応に、清美は胸が温かくなった。

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